シャープ コピー機のこんな利用法
しかも大学で教えるわけでもなく、中学か高校の一教師で一生を終えたかもしれないのだ。
Sにはもちろん作家としての才能は最初からあったかもしれない。
自分に文才があるという確信はない。
英文学なら真面目に勉強すれば秀才の彼であればそこ教えそれでは満足できない。
「始終中腰」でられるが、「腹は空虚」のまま悩んでいた。
そういう心理状態にあるSの起爆剤になったのは何だったのか。
ロンドン留学である。
英文学の本場ロンドンへの留学時代は素晴らしい出会いに満ちたものだったかというと、まったく正反対の暗い体験だった。
Sはロンドンのど真ん中で感じた孤独感によって、完全に引きこもってしまったのだ。
神経衰弱に陥ってしまぃ、ほとんど半狂乱だった。
彼にとって決定的な経験となる。
彼はエリート学者として国費留学していたのだが、英語に固まれたロンドンという土地で、非常に強い被差別感を味わった。
このころの苦しさをSは『倫敦塔などでも書いているが、要するに東洋人なんか何者でもないという周囲の目、浴びる途轍もないうんざりした気持ち、ましてや英語を自在に操れない自分に対する自己嫌悪もあったのだろう。
次第に彼は、外に出るのも億劫になっていく。
それまでは西洋を師と仰いで、西欧文化をできるだけ日本にもたらそう、西洋思想や文学を消化吸収して、日本人に啓蒙活動をしようと考えていた。
Sの留学の意味でもあったのだが、実際にロンドンに身を置いてみると、たとえば批評一つにしても、本場の学者と自分の見識が違うと、どうしても引け目を感じてしまう。
このままでは自分はいつまで経ってもロンドンの学者連中には頭が上がらないとSは思った。
西洋に盲従して「借着をして威張ってーも、自分はいつまでたっても安心できない。
西洋本位の考え方にうんざりしてしまったSは、自ら文学とは縁のない科学書や思想書を読み漁り、文芸に対する自分なりの立脚地を固めていく。
「この時私ははじめて文学とはどんなものであるか、その概念を根本的に自力で作り上げるよりほかに、私を救う途はないのだ」と思い至る。
その過程で、彼は「自己本位」という四文字を見つけ出し、この四文字を支えに一気に転換を図った。
「自己本位」という言葉に行き着いたとき、Sの心に火がついた。
もう世のため人ために留学した経験を生かそうなどとは考えない。
自分というものを中心にして考えようとしたら気概が出たという。
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